北方領土を巡るロシアとの交渉。
安倍政権で大転換を見たようだ。「日ソ共同宣言(昭和31年)を基礎として平和条約を加速させる」と
(11月14日、日露首脳会談)。同宣言では「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島(つまり北方4島のうち圧倒的に面積が狭い2島のみ!)を日本に引き渡す」としていた。だが、その後、東京宣言(平成5年)が発せられている。こちらでは「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」としている。この宣言のキモは、日露間に未解決の「4島」(!)の領土問題が存在する事実を、両国が共に認めたという点にある。更に共同宣言とは異なり、「解決」した“後”に条約締結という順序。
平和条約の“ただ食い”はさせないという事だ。
但し、「帰属問題を解決」と
曖昧な表現にとどめ、
“我が国に帰属する”とは明示していない。だからロシア側も歩み寄る事が出来た。我が国の国益を踏まえつつ、かなり巧妙に仕上げた合意だった。地道な交渉の積み重ねによる貴重な成果だ。以降、日本政府は一貫してこの立場を、譲れない一線として!堅持して来た。ロシアのプーチン大統領自身もイルクーツク声明(平成13年)や日露行動計画(同15年)で、東京宣言を平和条約締結の為の重要文書と認めている。更に安倍首相も、北方領土を巡る基本政策に一切変更はない、すなわち東京宣言の立場を堅持する、として来た。だが、安倍氏はこの度、東京宣言を無視して、その遥か前の共同宣言に
退却しようとしている。同氏はこれまで、歴代の政権が譲れない一線として踏みとどまって来たラインを平気で引き下げ、「負ければ解決」という“幻の手柄”(実は国益の致命的な毀損)で大向こう受けを狙って来た(それにまんまと騙される国民がいるのだからやりきれないが)。今や殆ど崩壊状態の「日韓合意」などはその惨めな典型例だ。北方領土問題でも同じ手口を考えているのか。だが、ロシアはもっと
強(したた)かだと思うぞ。安倍氏が功名心に駆られて、
前のめりになればなるほど、
足元を見られる。