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高森明勅
2018.12.3 19:15政治

北方領土でも「負ければ解決」?

北方領土を巡るロシアとの交渉。
 
安倍政権で大転換を見たようだ。
 
「日ソ共同宣言(昭和31年)を基礎として
平和条約を加速させる」と
(11月14日、日露首脳会談)。
 
同宣言では「平和条約締結後に歯舞群島と
色丹島(つまり北方4島のうち圧倒的に
面積が狭い2島のみ!)を日本に引き渡す」
としていた。
 
だが、その後、
東京宣言(平成5年)が発せられている。
 
こちらでは「4島の帰属問題を解決して
平和条約を締結する」としている。
この宣言のキモは、日露間に未解決の
「4島」(!)の領土問題が存在する事実を、
両国が共に認めたという点にある。
更に共同宣言とは異なり、
「解決」した“後”に条約締結という順序。

平和条約の“ただ食い”はさせないという事だ。

但し、「帰属問題を解決」と
曖昧な表現にとどめ、
“我が国に帰属する”とは明示していない。
 
だからロシア側も歩み寄る事が出来た。
 
我が国の国益を踏まえつつ、
かなり巧妙に仕上げた合意だった。
 
地道な交渉の積み重ねによる貴重な成果だ。
 
以降、日本政府は一貫してこの立場を、
譲れない一線として!堅持して来た。
 
ロシアのプーチン大統領自身も
イルクーツク声明(平成13年)や
日露行動計画(同15年)で、
東京宣言を平和条約締結の為の
重要文書と認めている。
 
更に安倍首相も、
北方領土を巡る基本政策に一切変更はない、
 
すなわち東京宣言の立場を堅持する、
として来た。
 
だが、安倍氏はこの度、
東京宣言を無視して、
その遥か前の共同宣言に
退却しようとしている。
 
同氏はこれまで、
歴代の政権が譲れない一線として
踏みとどまって来たラインを平気で引き下げ、
「負ければ解決」という“幻の手柄”
(実は国益の致命的な毀損)で大向こう受け
を狙って来た(それにまんまと騙される
国民がいるのだからやりきれないが)。
 
今や殆ど崩壊状態の「日韓合意」などは
その惨めな典型例だ。
 
北方領土問題でも同じ手口を考えているのか。
 
だが、ロシアはもっと
強(したた)かだと思うぞ。
 
安倍氏が功名心に駆られて、
前のめりになればなるほど、
足元を見られる。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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